雇用契約書と労働条件通知書は電子にできるのか
「本人の希望」と「印刷できること」、2つの条件
雇用契約書は電子契約で交わせますが、労働条件通知書には2つの条件があります。
雇用契約書は作ることが義務づけられた書面ではなく、「できる限り書面により確認する」もの(労働契約法第4条第2項)です。一方、労働条件の明示は義務で、原則は書面の交付です(労働基準法第15条第1項、施行規則第5条第4項)。電子で渡せるのは、①本人が希望したこと、②印刷して紙にできる方法であることを満たしたときだけです。
ただし、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」のように1枚で両方を兼ねているなら、条件の厳しい労働条件通知書のほうに合わせて運用してください。電子契約で署名をもらっても、労働条件の明示の条件を満たしていなければ、明示としては足りません。
30秒でわかる、この記事の要点
目次
12つの書面は、根拠になる法律が違います
要点雇用契約書は電子契約で交わしてかまいません。労働条件通知書は、明示が義務で、原則は書面の交付です。
「雇用契約書を電子契約で交わしたい」という相談は多いのですが、雇用契約書と労働条件通知書は、決まりが別です。ここを分けて考えないと、「電子契約サービスで送ったから大丈夫」と思っていたのに、労働条件の明示としては条件を満たしていなかった、ということが起こります。
| 項目 | 雇用契約書 | 労働条件通知書 |
|---|---|---|
| 根拠 | 労働契約法第6条・第4条第2項 | 労働基準法第15条第1項・施行規則第5条第4項 |
| 書面 | 作ることが義務づけられた書面ではない | 明示が義務で、原則は書面の交付 |
| 電子 | 電子契約で交わしてかまいません | 電子で渡すのに2つの条件があります |
雇用契約書:作ることが義務づけられた書面ではない
労働契約は、働く人と会社の合意で成り立ちます(労働契約法第6条)。契約書を作らなければ成立しない、という決まりはありません。
そのうえで、労働契約法第4条第2項はこう定めています。
労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。
「できる限り」です。紙の契約書を必ず作れ、という決まりではないので、電子契約で合意を記録する方法で問題ありません。
労働条件通知書:明示が義務で、原則は紙
一方、労働条件の明示は義務です(労働基準法第15条第1項)。賃金や労働時間など、決められた事項は決められた方法で明示しなければなりません。
その「決められた方法」が、原則として書面の交付です(労働基準法施行規則第5条第4項)。電子で渡せるのは、例外として条件を満たしたときだけです。
「労働条件通知書 兼 雇用契約書」は、厳しいほうに合わせてください。 1枚の書面で両方を兼ねている会社は多いと思います。その場合は、条件の厳しい労働条件通知書のほうに合わせて運用してください。電子契約で署名をもらっても、労働条件の明示の条件を満たしていなければ、明示としては足りません。
2労働条件通知書を電子で渡す、2つの条件
要点働く人が希望したこと、そして印刷して紙にできる方法であること。2つとも必要です。
2019年(平成31年)4月1日から、労働基準法施行規則第5条第4項のただし書きで、電子での明示が認められました。条件は2つです。
条件1:働く人が希望したこと
施行規則の文言は「当該労働者が……希望した場合には、当該方法とすることができる」です。
厚生労働省のリーフレットは、本当に希望したかを個別かつ明示的に確認するよう求めています。
厚生労働省のリーフレットは、希望していないのに電子メール等だけで明示することは、法令違反になると書いています。
条件2:印刷して紙にできる方法であること
使える方法は次のとおりです。
- FAX
- 電子メール、Webメール(Gmailなど)
- LINEなどのSNSのメッセージ機能
ただし、電子メール等は「労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるもの」に限られます。 印刷して紙にできることが条件です。
認められない例、望ましくない例
厚生労働省のリーフレットは、次のように整理しています。
| 扱い | 例 |
|---|---|
| 認められない | 本人のブログや個人のホームページへの書き込みなど、第三者に見せることを目的とした場所での明示 |
| 認められない | 本人が希望していないのに、電子メール等だけで明示すること |
| 望ましくない | SNSの本文に、労働条件を細切れに書くこと(印刷したときに途切れるため) |
| 望ましくない | SMS(禁止ではないが、ファイルを添付できず、文字数にも制限があるため) |
明示の義務に違反すると、30万円以下の罰金になることがあります(労働基準法第120条)。
3実務の手順に落とす
要点希望を1人ずつ確かめて記録し、印刷・保存できる形で送り、届いたかを確かめます。希望しない人には紙で渡します。
リーフレットが「望ましい」としている点を、手順の形に並べ直します。
- 1. 希望を確かめ、その記録を残す「電子での受け取りを希望しますか」と、1人ずつ確かめます。入社書類の束の中にチェック欄を1つ入れておくだけ、という形は、「個別かつ明示的に」と言えるか心配が残ります。いつ、どうやって確かめたかを残しておくと、後で希望の有無が争いになったときに示せます
- 2. 印刷・保存できる形で送るリーフレットは、添付ファイルで送ることをすすめています。PDFのように、そのまま印刷・保存できる形が安全です
- 3. 届いたかを確かめる送っただけでは、相手が受け取ったかは分かりません。リーフレットも、労働者に到達したか確認するよう書いています
- 4. 明示した日と、送った人を書いておく明示日、送信担当者名、事業場名・法人名、使用者名を書いておくと、トラブルの防止になるとされています
- 5. 本人に保存をすすめるSNSは、メッセージの保存期間が限られる場合があります。なるべく出力して保存するよう、本人に伝えることがすすめられています
- 6. 希望しない人には、紙で渡す希望しない人がいる以上、紙と電子が混ざる前提で運用を組む必要があります。全員を電子にそろえることは、今の決まりではできません
電子契約サービスで送る場合
ここは、厚生労働省の資料が直接答えていない部分なので、私たちの考えとして書きます。
電子契約サービスは、相手にリンクを送り、画面で内容を確認してもらう仕組みのものが多いと思います。そのとき確かめておきたいのは、相手が書面をPDFなどで手元に保存し、印刷できるかどうかです。画面で見られるだけで、保存も印刷もできない形だと、「出力して書面を作成できる」という条件を満たしているか、説明しにくくなります。
もちろん、条件1の「本人の希望」は、どの方法で送るにしても別に必要です。
4書く中身も、増えています
要点電子にするかどうかとは別に、労働条件通知書に書く事項が2024年4月と2026年10月に増えています。
電子にするかどうかとは別に、労働条件通知書に書く事項そのものが、ここ数年で増えています。
2024年4月から
- すべての人に:就業場所と業務の「変更の範囲」
- 有期契約の人に:更新の上限(通算契約期間や更新回数の上限)の有無と内容
- 無期転換の申込みができる更新のときに:無期転換を申し込めることと、転換後の労働条件
厚生労働省のモデル労働条件通知書(一般労働者用)には、これらを書く欄があります。
2026年10月から
パートタイム・有期雇用の人を雇い入れるときの明示事項に、待遇の違いの内容や理由について、説明を求めることができることが加わりました。契約を更新するときも対象です。
確認できた範囲では、上で挙げたモデル労働条件通知書には、この点を書く欄がまだありませんでした。最新の様式は、厚生労働省のページで確かめてください。
5「本人の希望」の条件は、見直しが話し合われています
要点見直しは話し合われていますが、省令が変わったという情報は見つけていません。今は2つの条件のとおりに運用する必要があります。
2026年2月16日の規制改革推進会議のワーキンググループで、労働条件の明示方法が議題になりました。
- 厚生労働省は、今の制度(原則は書面、希望があれば電子も可)と、その経緯を説明する資料を出しました
- 日本経済団体連合会は、「電子で明示したうえで、申し出があった人にだけ書面を渡す」形や、「労使協定を結べば電子で明示できる」形への見直しを求める資料を出しました
この記事を書いた2026年10月の時点で、省令が変わったという情報は、確認できた範囲では見つけていません。 今は、ここまでに書いた2つの条件のとおりに運用する必要があります。
6印紙について
要点雇用契約書は、紙で作っても印紙は要りません。
雇用契約書は、紙で作っても印紙は要りません。 印紙税の課税物件表に載っていないためです。電子にしたかどうかで印紙の扱いが変わることもありません。印紙が要る契約書・要らない契約書の見分け方は、電子契約に印紙が要らない理由にまとめました。
まとめ
- 雇用契約書は、作ることが義務づけられた書面ではなく、「できる限り書面で確認」するもの(労働契約法第4条第2項)。電子契約で交わしてかまいません
- 労働条件通知書は、明示が義務で、原則は書面の交付(労働基準法第15条、施行規則第5条第4項)
- 電子で渡すには、①本人が希望したこと、②印刷して紙にできる方法であることの2つが条件
- 希望は1人ずつ明示的に確かめ、記録を残す。希望しない人には紙で渡す
- 書く事項は2024年4月(変更の範囲・更新上限・無期転換)と2026年10月(パート・有期の待遇差の説明を求められること)に増えています
- 「本人の希望」の条件は見直しが話し合われていますが、2026年10月時点では、今の条件のままです
この記事は、雇用契約書と労働条件通知書を電子で交わす・渡すときの決まりを、厚生労働省の資料をもとに整理したものです。一般的な情報提供であり、個別の案件についての法的な助言ではありません。実際の運用は、社会保険労務士や所轄の労働基準監督署にご確認ください。
参照した一次情報
- 労働基準法(e-Gov法令検索)
- 労働基準法施行規則(e-Gov法令検索)
- 労働契約法(e-Gov法令検索)
- 厚生労働省 リーフレット「平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります」
- 厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」
- 厚生労働省 モデル労働条件通知書(一般労働者用;常用、有期雇用型)
- 厚生労働省 Webマガジン「2026年10月からパートタイム・有期雇用のルールが変わります」
- 規制改革推進会議 ワーキンググループ(2026年2月16日)資料1-1 労働条件の明示について(厚生労働省)
- 同 資料1-2 労働条件の明示方法の見直し(日本経済団体連合会)