電子契約に印紙が要らない理由
業務委託・売買・賃貸借で、紙に戻ってしまう場面
電子で交わした契約書に、印紙は要りません。
印紙税は「文書」にかかる税で、PDFなどの電磁的記録は文書に含まれないとされています(印紙税法第2条)。PDFをメールで送るだけなら課税されない、と福岡国税局も回答しています。
ただし、電子にして印紙代が浮くのは、紙でも印紙が要る契約書だけです。建物の賃貸借、物の1回きりの売買、雇用契約、秘密保持契約は、もともと印紙が要りません。また、紙が1枚でも相手に渡れば、その紙は課税されえます。
30秒でわかる、この記事の要点
目次
1なぜ電子だと印紙が要らないのか
要点「電子契約は非課税」と書いた条文はなく、そもそも課税の対象に入っていない、という組み立てです。
「電子契約なら印紙は要らない」。結論としては正しいです。
ただ、実務で迷うのはその先です。
この2つを、条文と国税局の文書回答をもとに確かめます。
課税されるのは「文書」
印紙税法第2条は、課税の対象をこう定めています。
別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。
課税されるのは「文書」です。 PDFなどの電磁的記録は、ここに含まれないとされています。
「作成」とは、紙に書いて相手に渡すこと
もう一つの鍵が「作成」の意味です。印紙税法基本通達第44条は、作成をこう説明しています。
単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう
契約書のように相手に渡すための文書は、相手に交付したときに作成したことになります。
国税局が、メール送信の場面に答えています
福岡国税局の文書回答(2008年10月24日)が、まさにこの場面を扱っています。注文請書をPDFにして電子メールで送った場合です。
- 電子メールで送信しただけでは、課税文書を作成したことにはならない。印紙税はかからない
- ただし、メールで送ったあとに、現物を持参するなどして相手に交付した場合は、その現物に印紙税がかかる
後半が大事です。 電子と紙を両方渡すと、紙の側は課税されます。
2将来も変わらない、とは言い切れません
要点今のところ取扱いは変わっていませんが、将来にわたって必ず非課税だと約束されているわけではありません。
平成17年(2005年)3月15日の政府答弁書は、印紙税が文書にかかる税なので電磁的記録には課税されない、という指摘を認めています。
そのうえで、ペーパーレス化の状況を見ながら、何らかの対応が必要か検討するとも書いています。今のところ取扱いは変わっていませんが、将来にわたって必ず非課税だと約束されているわけではありません。
3そもそも、その契約書は紙でも印紙が要るのか
要点電子にして印紙代が浮くのは、紙で作っても印紙が要る契約書だけです。
「電子にすれば印紙代が浮く」のは、紙で作っても印紙が要る契約書だけです。紙でも印紙が要らない契約書なら、電子にしても印紙の面では何も変わりません。
国税庁の「印紙税額一覧表」をもとに、よく使う契約書を並べます。
| 契約書 | 紙で作った場合 | 補足 |
|---|---|---|
| 業務委託契約書 | 中身によって分かれます | 下の「業務委託契約書」をご覧ください |
| 不動産の売買 | 第1号文書(不動産の譲渡に関する契約書) | 契約金額に応じて200円から。令和9年(2027年)3月31日までに作成されるものには軽減措置があります |
| 物の1回きりの売買 | 印紙は要りません | 課税物件表に載っていません |
| 継続して売買するための基本契約(売買取引基本契約書) | 条件に当てはまれば第7号文書 | 4,000円 |
| 土地の賃借権の設定や譲渡 | 第1号文書 | |
| 建物や物の賃貸借 | 印紙は要りません | 課税物件表に載っていません |
| お金の貸し借り(金銭消費貸借契約書) | 第1号文書 | |
| 雇用契約書・秘密保持契約書 | 印紙は要りません | 課税物件表に載っていません |
業務委託契約書
中身によって分かれます。 「業務委託」という名前では決まりません。
| 中身 | 当たる文書 | 印紙 |
|---|---|---|
| 仕事の完成を約束する内容(請負) | 第2号文書(請負に関する契約書) | 契約金額に応じて200円から |
| 継続して取引するための基本契約で、一定の条件(印紙税法施行令第26条)に当てはまるもの | 第7号文書(継続的取引の基本となる契約書) | 一律4,000円 |
| 事務の処理だけを任せる内容(委任・準委任) | 課税物件表のどれにも当たらない | 印紙は要らないとされるのが一般的です |
印紙税額一覧表も、第7号文書の例に「業務委託契約書」を挙げています。
同じ「業務委託契約書」でも、200円、4,000円、0円に分かれます。どれに当たるかは書いてある中身で決まるので、迷ったら税理士か税務署に確認してください。
どの契約書も書いてある内容で判断されます。 たとえば秘密保持契約書の中に、請負や継続的な取引の内容まで書き込んでいれば、扱いが変わることがあります。
4電子にしたつもりで、課税されてしまう場面
要点紙が1枚でも相手に渡れば、その紙は「文書」です。署名した紙の郵送、片方だけ紙、紙の覚書に注意してください。
紙が1枚でも相手に渡れば、その紙は「文書」です。よくある場面を挙げます。
1. 電子で交わしたあと、署名した紙も渡した
PDFで合意したあと、念のため印刷して署名・押印し、相手に郵送する。 丁寧なつもりの運用ですが、その紙は契約書として交付されています。課税の対象になりえます。
2. メールで送ったあと、同じものを持参・郵送した
福岡国税局の文書回答の後半が、まさにこの場面です。メール送信のあとに現物を交付すれば、その現物に印紙税がかかります。
3. 片方は電子、片方は紙
「こちらは電子で署名したが、相手方は紙に署名して返送してきた」。紙で作って交付した側の書面は、文書です。 電子契約にそろえるなら、相手方にも電子で署名してもらう流れにしておく必要があります。
4. 紙の変更契約・覚書を足した
最初の契約は電子でも、金額や期間の変更を紙の覚書で行えば、その覚書は文書です。 変更契約も電子で回すほうが、迷いがありません。
5課税されない場面:FAXと、自分用の印刷
要点分かれ目は、印刷したものを相手に渡すかどうかです。
課税されない例:FAXで送る
福岡国税局の文書回答は、国税庁のコミットメントライン契約に関する解説(問2)を引いています。請求書や領収書をFAXや電子メールで提出する場合は、実際に文書が交付されないので、印紙税の課税原因は発生しないという説明です。
自分用に印刷して保管するのは
電子で交わした契約書を、自分の控えとして印刷して手元に置くだけなら、相手に交付していません。基本通達第44条の「目的に従って行使する」に当たらない、と考えるのが自然です。ただし、これを直接答えた国税庁の資料は、確認できた範囲では見つけていません。印刷したものを相手に渡すかどうかが分かれ目だと押さえておいてください。
まとめ
- 印紙税は「文書」にかかる税で、電磁的記録は文書に含まれないとされています(印紙税法第2条)
- 「作成」は紙に書いて相手に交付すること(基本通達第44条)。PDFをメールで送るだけなら課税されない、と福岡国税局が回答しています
- 電子にして印紙代が浮くのは、紙でも印紙が要る契約書だけです。建物の賃貸借、物の1回きりの売買、雇用契約、秘密保持契約は、もともと印紙が要りません
- 業務委託契約書は中身で分かれます(請負なら第2号、継続的取引の基本契約なら第7号、委任だけなら不要)
- 紙が1枚でも相手に渡れば、その紙は課税されえます。 署名した紙の郵送、片方だけ紙、紙の覚書に注意してください
- 政府は将来の対応を検討するとしており、取扱いが変わる可能性はゼロではありません
この記事は、業務委託・売買・賃貸借などの一般の契約について、電子契約と印紙税の関係を整理したものです。一般的な情報提供であり、個別の案件についての税務上の助言ではありません。実際の判断は税理士や所轄の税務署にご確認ください。工事の請負契約については工事請負契約書の印紙は、電子にすると不要ですで扱っています。