インシナックス 訪問販売と電子契約のガイド

工事請負契約書の印紙は、電子にすると不要です — ただし、削減額は導入理由になりません

公開:2026年8月15日

この記事は、訪問販売で工事をともなう契約を扱う事業者向けに、印紙税の取扱いを整理したものです。一般的な情報提供であり、個別の案件についての税務上の助言ではありません。実際の判断は税理士や所轄の税務署にご確認ください。

電子契約を勧める記事の多くが、最初に印紙代の削減を挙げます。分かりやすいからだと思います。

ただ、リフォーム工事の価格帯で実際に計算すると、1件あたり200円から1,000円です。年間100件でも数万円にしかなりません。

それでも「電子にすると印紙が不要」という結論は正しいので、その根拠と、いくら減るのか、そしてどこで間違えると電子にしたつもりで課税されるのかを書きます。


結論:電磁的記録は「文書」ではないので、課税されません

まず根拠から。「電子契約は非課税」という条文があるわけではありません。そもそも課税の対象になっていないという組み立てです。

印紙税法第2条は、こうなっています。

別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。

課税されるのは「文書」です。

国税庁の質疑応答事例が、まさに建設工事の注文請書を例にして答えています。

【照会要旨】 当社は建設工事を請け負っていますが、取引先から受注するに当たり、請負契約の成立を証するものとして書面で注文請書を作成することに代えて、受注する旨や請負内容等の取引情報を記録した電磁的記録に当社の電子署名を付したものを取引先に電子メールで送信しています。この電磁的記録は、印紙税の課税対象となるのでしょうか。
【回答要旨】 印紙税の課税対象となるのは、課税物件表の物件名欄に掲げられている文書であり、電磁的記録は文書に含まれません。したがって、おたずねの電磁的記録に印紙税は課税されません。

建設業がそのまま照会の題材になっています。 解釈を当てはめる必要がありません。


紙なら、いくらかかるのか

工事請負契約書は、印紙税法別表第一の第2号文書(請負に関する契約書)に当たります。

国税庁のタックスアンサーは、第2号文書の具体例としてこう挙げています。

工事請負契約書、工事注文請書、物品加工注文請書、広告契約書、会計監査契約書、プロ野球選手や映画俳優などの専属契約書

「工事注文請書」が入っていることに注意してください。 「契約書という名前ではないから印紙は要らない」という理解は誤りです。注文書・請書方式で運用している場合の話は注文書と請書だけで済ませていませんかに書きました。

軽減措置があります

建設工事の請負契約書には、租税特別措置法第91条による軽減措置があります。

  • 対象:建設業法第2条第1項に規定する建設工事の請負に係る契約に基づき作成されるもの
  • 契約金額が100万円を超えるもの
  • 期間:平成26年4月1日から令和9年(2027年)3月31日までに作成されるもの

リフォームの価格帯を中心に並べます。

  • 1万円未満 … 非課税
  • 1万円以上 100万円以下 … 200円(軽減の対象外
  • 100万円超 200万円以下 … 本則400円 → 軽減後200円
  • 200万円超 300万円以下 … 本則1,000円 → 軽減後500円
  • 300万円超 500万円以下 … 本則2,000円 → 軽減後1,000円
  • 500万円超 1,000万円以下 … 本則1万円 → 軽減後5,000円
  • 1,000万円超 5,000万円以下 … 本則2万円 → 軽減後1万円
  • 契約金額の記載がないもの … 200円

100万円以下は軽減の対象外である点に注意してください。もっとも本則が200円なので、金額としては変わりません。


年間でいくら減るのか

正直に計算します。

契約単価150万円・年間100件の事業者を想定します。1件あたり200円(100万円超200万円以下・軽減後)です。

  • 年間 20,000円

契約単価350万円・年間100件なら1件1,000円。

  • 年間 100,000円

これが、電子契約で削減できる印紙代のすべてです。

契約書を2部作って双方が保管する運用なら2倍になりますが、それでも桁は変わりません。

電子契約サービスの利用料のほうが、たいてい上回ります。


印紙代を導入理由にすると、期待を外します

私はこう考えています。

印紙代の削減は、電子契約を入れる理由としては小さすぎます。 ここを主な理由にして稟議を通すと、導入後に「思ったほど変わらない」という評価になります。

本当に効くのは別のところです。

  • 書面の作り直しが減る。金額や日付が変わるたびに刷り直していたものが、データの修正で済みます
  • 記載事項の食い違いが起きにくくなる。特商法の書面と建設業法の請負契約書を別々に手作業で作ると、金額や工期がずれます。これは実際に起きています
  • 交付と到達の記録が残る。訪問販売では、クーリング・オフの起算日を立証できるかどうかが決定的です
  • 契約書の紛失がなくなる

そして、印紙代とは比べものにならない金額が動くのは、クーリング・オフのほうです。 起算日が立っていなければ、期間はいつまでも終わりません。150万円の工事が丸ごと戻ってくる話です。

印紙は200円、契約は150万円。 どちらを守る仕組みに投資するか、という話だと思います。


どこで間違えると、電子にしたつもりで課税されるのか

ここが実務上の注意点です。

紙が1枚でも混ざる場面

電子で契約したあとに、追加工事の変更契約を紙で作る。 これは訪販リフォームで起きます。

紙で作った変更契約書は、文書です。 電子契約と組み合わせたからといって、紙の側が非課税になるわけではありません。

国税庁の質疑応答事例には、この場面を扱ったものが2件あります。

  • 変更契約書に電磁的記録(電子契約)を引用する旨の記載がある場合

`https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/02/11.htm`

  • 電磁的記録(電子契約)に係る契約金額等を記載した変更契約書の記載金額

`https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/02/12.htm`

この2件について、私は本文を読めていません。 国税庁のページが古い文字コードで配信されており、こちらの環境では文字化けして中身を確認できませんでした。内容には立ち入りません。

ただし、タイトルだけで論点は分かります。 電子契約を紙の変更契約書で引用したときに、記載金額をどう見るか。追加工事が出やすいリフォームでは、確実に関係します。

変更契約も電子で行うなら、この論点はそもそも生じません。 紙と電子を混ぜる運用にするなら、上の2件を税理士か所轄の税務署に確認してください。

「印刷して渡す」場合

電子で作成・交付したものを、後から印刷して手元に置くこと自体は、通常の運用です。

ただし、印刷したものに署名や押印をして相手方に交付するという運用にすると、話が変わります。それは紙の契約書を作成・交付したことになりうるからです。

電子でやると決めたなら、最後まで電子で通す。 中途半端に紙を挟むと、非課税の前提が崩れます。


実装してみて分かったこと

印紙の削減額を、画面に出すのをやめました

「電子にすると印紙代◯円が節約できます」という表示を作りかけて、やめました。

理由が2つあります。

ひとつは、金額が小さいので、かえって説得力を損なうこと。200円と表示されたら、逆効果です。

もうひとつは、訪問販売では電子を選ぶと得をするという見せ方が、特定商取引法施行規則第18条第9号ニに触れることです。お客様の目に触れる可能性がある画面には出せません。この点は電子交付でやってはいけない9つのことに書きました。

変更契約を、電子のまま回せるようにしました

紙と電子が混ざる場面を作らないためです。追加工事が出たときに「変更契約だけ紙で」という運用になると、印紙の論点が復活します。

建設業法第19条第2項の変更契約も、電子の対象です。 施行規則が定義する「契約事項等」に、変更の内容が含まれています。元の契約と同じ経路で回せる形にしました。

契約金額の記載を、必須にしました

「契約金額の記載がないもの」は200円という扱いがあります。金額を書かなければ印紙が安くなる、という発想が出てくる余地を消したかったためです。

そもそも建設業法第19条第1項第2号が「請負代金の額」を必須の記載事項にしているので、書かない選択肢はありません。


まとめ

  • 電磁的記録は印紙税法の「文書」に含まれないため、電子契約に印紙は不要です(印紙税法第2条・国税庁質疑応答事例)
  • 「電子契約は非課税」という条文があるわけではなく、そもそも課税物件ではないという組み立てです
  • 紙の工事請負契約書は第2号文書「工事注文請書」も国税庁が例示しています
  • 軽減措置は令和9年3月31日まで、契約金額100万円超が対象
  • リフォームの価格帯(100万円超500万円以下)で1件200〜1,000円。年間100件でも2万〜10万円です
  • 印紙代の削減を導入理由にすると、期待を外します。 効くのは書面の作り直し・記載の食い違い・交付と到達の記録のほうです
  • 紙が1枚でも混ざると、その紙は課税されます。 変更契約を紙で作る運用は要注意です
  • 電子契約を紙の変更契約書で引用する場面には国税庁の質疑応答事例が2件あります。混ぜる運用にするなら確認してください

参照した一次情報


訪問販売の契約実務について、ご相談を承っています。

変更契約を電子のまま回す設計、紙と電子が混ざらない運用。実装した立場からお答えできることがあります。インシナックスの実際の画面をご覧いただくこともできます。

お問い合わせ:info@michibikiworks.com

執筆:五十嵐 天導(みちびきworks 代表)

訪問販売の契約書面の電子化について、ご相談を承っています。

電子契約システム「インシナックス」は、訪問販売の現場に合わせて設計しています。 ご質問は info@michibikiworks.com までお気軽にどうぞ。

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