使っている電子契約サービスは、建設工事の請負契約に使えますか — 令和7年9月30日の新ガイドラインで確認する
この記事は、訪問販売で工事をともなう契約を扱う事業者向けに、建設業法の規定を整理したものです。一般的な情報提供であり、個別の案件についての法的助言ではありません。実際の判断は弁護士にご確認ください。
電子契約のサービスはたくさんあります。無料で始められるものもあります。
ただ、建設工事の請負契約には、建設業法が独自の技術的基準を置いています。 一般的な電子契約サービスが、自動的にそれを満たすわけではありません。
そして令和7年9月30日、国土交通省のガイドラインが入れ替わりました。 平成13年から使われてきた古いガイドラインは、このとき廃止されています。
この記事では、いま使っている(あるいはこれから選ぶ)サービスが建設工事の請負契約に使えるかを、順に確認できる形に整理します。
結論:旧ガイドラインは廃止され、立会人型が使えることが明確になりました
新しいガイドラインの名称は「電磁的措置による建設工事の請負契約の締結に係るガイドライン」です。令和7年9月30日施行。
そして本文に、こう書かれています。
「建設業法施行規則第13条の2第2項に規定する『技術的基準』に係るガイドライン」(平成13年3月30日付け)は廃止する。
最大の変更点は、事業者署名型(立会人型)の電子署名が使えることが明確になったことです。
立会人型とは、クラウドの電子契約サービスが提供する署名鍵を使って契約を結ぶ方式です。お客様がご自身で電子証明書を用意する必要がありません。 リフォーム工事の発注者が個人のお客様である場合、これが使えるかどうかは決定的に重要です。
従来のガイドラインは当事者署名型を前提に読まれることが多く、立会人型で建設工事の請負契約を締結してよいのかが、はっきりしませんでした。 そこが明確になりました。
ただし、経過措置があります
ここは見落とされやすいところです。
ただし、本ガイドラインは、建設業を営む者と電子契約に係るサービスを提供する事業者との間で、施行日以後に当該サービスの利用に係る契約が締結される契約について適用し、施行日前に当該サービスの利用に係る契約が締結された契約については、なお従前の例による
読み方に注意してください。基準になるのは、お客様との請負契約の日ではありません。 電子契約サービスの利用契約をいつ結んだかです。
つまり、令和7年9月30日より前から使っている電子契約サービスについては、旧ガイドラインが適用され続けます。 新ガイドラインで明確になった立会人型の扱いは、そのままでは及びません。
すでに電子契約を導入している事業者ほど、確認が必要です。
その前に:条番号が変わっています
古い資料を読むときの注意です。
旧ガイドラインの表題は「施行規則第13条の2第2項」でした。現行の建設業法施行規則では、電磁的措置の種類と技術的基準は第13条の4です。 第13条の2は現在まったく別の内容(譲渡及び譲受け並びに合併及び分割の認可の申請等)になっています。
- 措置の種類と技術的基準 … 第13条の4
- 示すべき種類及び内容 … 第13条の5
- 承諾に用いる方法 … 第13条の6
「13条の2」と書いてある解説記事は、古い可能性があります。
チェック1:どの方式で送るのかが決まっていますか
施行規則第13条の4第1項は、使える措置を4つ挙げています。ガイドラインは、それぞれに実務上の例を付けています。
- 第1号イ … 相手方のコンピュータへ送信して記録する方法。ガイドラインの例は「電子メール」
- 第1号ロ … 自社のファイルに記録したものを閲覧に供し、相手方のファイルに記録させる方法。例は「ファイル転送サービス、クラウドサービス(非対面)」
- 第1号ハ … 相手方のファイルに記録されたものを閲覧に供する方法。例は「クラウドサービス(対面)」
- 第2号 … 記録媒体を交付する方法。例は「コンパクトディスク」
多くのクラウド型サービスは、ロかハに当たります。
ロとハには、通知が必須です
ここが見落とされます。施行規則第13条の4第3項が、ロとハの措置については、記録した旨を相手方に通知することを求めています。
契約事項等を……ファイルに記録する旨又は記録した旨を当該契約の相手方に対し通知するものであること。ただし、当該契約の相手方が当該契約事項等を閲覧していたことを確認したときはこの限りではない。
ガイドラインも「契約事項等が記録されたことが通知されるシステム」であることを求めています。
「アップロードしておいたので見てください」と口頭で伝えるだけでは足りません。 システムが通知を出すか、あるいは相手方が閲覧したことを確認する必要があります。
決めた方式は、承諾のときに示します
施行規則第13条の5は、承諾を得るときに示すべき内容を定めています。
一 前条第一項に規定する措置のうち建設工事の請負契約の当事者が講じるもの
二 ファイルへの記録の方式
つまり、4つのうちどれを使うのかと、ファイルの記録方式を示す必要があります。ガイドラインは、サービス名称の記載や、PDFなどのファイル形式・電子署名やタイムスタンプの形式を示すことが望ましいとしています。
「電子で送ります」だけでは、示したことになりません。
そもそも何を書いた書面を送るのかは、建設業法19条の記載事項を、リフォーム契約書に落とすをご覧ください。
チェック2:見読性 — 出力して書面にできますか
技術的基準の1つめです。
当該契約の相手方がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものであること。(施行規則第13条の4第2項第1号)
ガイドラインが求めているのは、次の3点です。
- 契約事項等がディスプレイや書面等に速やかかつ整然と表示できること
- 記録の適切な管理や検索機能の実装を行うことが望ましい
- 契約成立後、当該契約書の電子データを自らの端末に保存する等の対応を行うことが望ましい
3つめは、実務上とても大事です。
契約データがサービス提供事業者のクラウドにしかない場合、そのサービスを解約したら過去の契約書が見られなくなります。 料金プランを下げたら閲覧数に制限がかかる、というサービスもあります。
契約が終わった後も、書面として出せる状態を自分で確保しておく。 ガイドラインが「望ましい」としているのはそういうことです。
チェック3:原本性 — 改ざんされていないと確認できますか
技術的基準の2つめです。
ファイルに記録された契約事項等について、改変が行われていないかどうかを確認することができる措置を講じていること。(施行規則第13条の4第2項第2号)
ガイドラインは、次の3つのいずれかを利用する必要があるとしています。
- 公開鍵暗号方式による電子署名 — 「安全性や実装性能が確認された暗号技術により当該記録を暗号化したもの(暗号文)及び暗号文を復号するために必要な公開鍵を添付して相手方に送信」
- タイムスタンプ — ガイドラインが参照する告示に規定するもの
- これらと同等の効力を有すると認められる方法
そして、公開鍵方式を使う場合は「公開鍵基盤(PKI)を利用した方式を用いることが望ましい」としています。
「同等の効力を有すると認められる方法」について、ガイドラインは具体例を挙げていません。 つまり、電子署名かタイムスタンプ以外の方法を使う場合、それが同等であることを自分で説明できる必要があります。
実務的には、次のようなものでは足りないと考えるべきです。
- パスワード付きのZIPファイル
- PDFの編集制限(パスワードでの保護)
- 社印の画像を貼っただけのPDF
これらは「改変が行われていないかどうかを確認できる」措置ではありません。 改変を面倒にするだけで、改変されたかどうかを検証できません。
チェック4:本人性 — 相手が本人だと確認できますか
技術的基準の3つめです。
当該契約の相手方が本人であることを確認することができる措置を講じていること。(施行規則第13条の4第2項第3号)
ガイドラインは、電子署名の方式を3つに分けて説明しています。
- 当事者署名型(ローカル署名) — 「当該契約の当事者同士が自らの署名鍵等を用いて、第三者を介在させることなく当事者間の連絡のみにより契約を締結する」方式
- 当事者署名型(リモート署名) — 「当該契約の当事者同士が自らの署名鍵等を用いて、第三者の提供する契約サービスを介して契約を締結する」方式
- 事業者署名型(立会人型) — 「当該契約の当事者同士が、契約サービスを提供する第三者の署名鍵等を用いて、当該契約サービスを介して契約を締結する」方式
方式ごとに、求められる措置が違います
当事者署名型の場合。
特定認証業務を行う事業者等の第三者機関が発行する電子証明書を添付して契約の相手方に送信することが望ましい
事業者署名型(立会人型)の場合。
技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる
そのうえで、本人性の確認として「2要素認証等を利用することが望ましい」としています。
「望ましい」は「必須」ではありません
ここは正確に押さえておく価値があります。
2要素認証について、国土交通省はパブリックコメントの回答で「本人性確保のための手法の一つとして例示したものであり、必須ではない」旨を明言しています。
「望ましい」と書かれているものを「必須」と読むと、使えるはずのサービスを外してしまいます。 逆に、望ましいとされているものを満たしていれば、説明が楽になります。必須と推奨は分けて考えてください。
チェック5:承諾を取っていますか
技術的基準を満たしても、承諾がなければ電子で締結できません。
建設工事の請負契約の当事者は、前二項の規定による措置に代えて、政令で定めるところにより、当該契約の相手方の承諾を得て、……国土交通省令で定めるものを講ずることができる。(建設業法第19条第3項)
承諾の取り方は施行令第5条の5が定めています。あらかじめ、講じる電磁的措置の種類及び内容を示したうえで、書面または電磁的方法で承諾を得ます。
そして撤回できます。
前項の規定による承諾を得た建設工事の請負契約の当事者は、当該契約の相手方から書面又は電磁的方法により当該承諾を撤回する旨の申出があつたときは、……電磁的措置を講じてはならない。(施行令第5条の5第2項)
紙に戻せる運用を残しておく必要があります。
包括承諾は否定されていません
契約のたびに承諾を取り直すのか、という点について、国土交通省はパブリックコメントでこう答えています。
建設業法上は、同一の契約当事者間で事前承諾を一度包括的に行った上で、以後の契約については事前承諾を契約の度に求めないことを必ずしも否定するものではありません
継続的に取引がある相手方であれば、包括的な承諾でよいということです。
【重要】訪問販売なら、特商法の承諾も別に必要です
建設業法の承諾を取っても、特定商取引法の要件は満たされません。
特商法側には、事前の説明義務、適合性の確認、承諾を証する書面の交付があります。建設業法側にはどれもありません。 そして特商法のガイドラインは、書面ごとに承諾の手続が必要としています。包括承諾の扱いも違います。
この点はリフォーム訪販は特商法と建設業法が同時にかかるで詳しく整理しました。
チェック6:ほかの法律にも当たっていますか
ガイドラインの「その他留意すべき事項」に、こう書かれています。
電子署名法以外にも、民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成16年法律第149号)、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(平成10年法律第25号)など関係法令が複数あることから、関係法令の適用を受ける場合その要件にも留意する必要
後者は、いわゆる電子帳簿保存法です。電子で受け取った契約書は電子取引のデータとして保存義務がかかります。 印刷して紙で保管する、では要件を満たしません。
「建設業法の基準は満たしたから終わり」ではないということです。
なお、施工体制台帳の電子化については別のガイドライン(令和5年国不建第43号)が示されています。
確認する順番
まとめると、こうなります。
- 経過措置 — 電子契約サービスの利用契約を、令和7年9月30日より前に結んでいませんか
- 措置の種類 — 4つのどれを使うか決まっていますか。ロ・ハなら通知が出るシステムですか
- 見読性 — 出力して書面にできますか。契約データを自分の手元にも保存していますか
- 原本性 — 電子署名かタイムスタンプ、またはそれと同等と説明できる方法ですか
- 本人性 — 立会人型なら、事業者の意思が介在しない仕組みだと説明できますか
- 承諾 — 種類と内容を示して、承諾を得ていますか。撤回されたときに紙へ戻せますか
- 他法令 — 電子帳簿保存法の保存要件を満たしていますか
- 訪問販売なら — 特商法の承諾を、別に取っていますか
実装してみて分かったこと
原本性の措置を、まだ確定させていません
正直に書きます。インシナックスでは、本番の電子証明書をまだ設定していません。
理由があります。自己署名の証明書だと、受け取った方がAcrobatで開いたときに警告が出ます。「この署名は検証できません」と表示される状態で交付するほうが、かえって信用を損ないます。 商用の証明書を購入してから有効にする、という順序にしました。
そのうえで、次の順で進めることにしています。
- 事業者署名(立会人型の署名そのもの) — 実装済み
- 認定タイムスタンプの導入 — 検討中
- AATL証明書(Acrobatで警告が出ない証明書) — 外販先にとって価値が出たら
原本性の基準は「電子署名かタイムスタンプ」なので、2の段階で満たせます。 3は「警告が出ない」という見た目の話で、要件そのものではありません。要件と見た目を分けて考えたことで、投資の順序が決まりました。
契約データを、こちら側にも保存する設計にしました
見読性のところでガイドラインが「自らの端末に保存する等の対応」を望ましいとしていますが、これはサービス提供者側から見ると、囲い込みを弱める話です。
それでも、契約書が閲覧できなくなる可能性のある仕組みは、契約書の仕組みとして成立していないと考えました。データを取り出せる形にしています。
通知を「出したこと」も記録に残しました
ロ・ハの措置では通知が要件です。通知を出す機能があることと、実際に出たことは別です。
メールの送信が失敗していても画面上は成功に見える、ということが起こりえます。送信した記録と、送信が成功した記録を分けて持つようにしました。
承諾を、建設業法用と特商法用に分けました
同じ「電子化の承諾」でも、要件がまったく違います。1つのフラグで持つと、建設業法の承諾しか取っていないのに特商法も満たしたことにしてしまいます。
片方だけ承諾、という状態が正しく表現できる形にしました。
まとめ
- 令和7年9月30日、建設業法の電子契約ガイドラインが入れ替わりました。 平成13年版は廃止されています
- 最大の変更は、事業者署名型(立会人型)が使えることの明確化です。お客様が電子証明書を持つ必要がなくなります
- 経過措置に注意。 基準は請負契約の日ではなく、電子契約サービスの利用契約をいつ結んだかです。施行日前から使っているなら従前の例によります
- 条番号が変わっています。 技術的基準は現行では施行規則第13条の4第2項です
- 技術的基準は3つ。見読性・原本性・本人性
- クラウド型(ロ・ハ)は、記録した旨の通知が要件です
- 原本性は電子署名かタイムスタンプ、または同等と説明できる方法。 パスワード付きZIPでは足りません
- 「望ましい」は「必須」ではありません。 2要素認証について国土交通省が明言しています
- 承諾は撤回できます。 紙に戻せる運用を残してください
- 電子帳簿保存法の保存要件は別にかかります
- 訪問販売なら、特商法の承諾を別に取る必要があります
参照した一次情報
- 電磁的措置による建設工事の請負契約の締結に係るガイドライン(令和7年9月30日・国土交通省)
- 注文書及び請書による契約の締結について(令和7年9月30日最終改正・国土交通省)
- 建設業法(e-Gov法令検索)
- 建設業法施行令(e-Gov法令検索)
- 建設業法施行規則(e-Gov法令検索)
- 契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供に係るガイドライン(消費者庁)
- 建設業法 第19条第3項、同法施行令 第5条の5、同法施行規則 第13条の4〜第13条の6
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