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訪問販売の契約書面は電子化できるのか — 改正特商法の要件を手順どおりに整理する

公開:2026年8月2日 / 最終更新:2026年8月15日

訪問販売では、契約書面をお客様に交付することが法律で義務づけられています。長いあいだ、これは紙で渡すしかありませんでした。

2023年6月1日に施行された改正特定商取引法で、この書面を電子データで提供できるようになりました。ただし「メールで送ればいい」という話ではありません。消費者庁が定めた要件は、想像よりはるかに細かいです。

この記事では、条文と消費者庁のガイドラインにあたって確認した内容を、実務の手順に沿って整理します。私たちは訪問販売向けの電子契約システムを実際に開発しているので、「どこでつまずくか」も併せて書きます。


結論:電子化できる。ただし手順を一つでも飛ばすと交付したことにならない

まず全体像です。電磁的提供が認められるには、次の流れをすべて満たす必要があります。

  1. 使う電磁的方法の種類と記録方式を示す
  2. 4つの事項を、平易な表現で説明する
  3. お客様の機器・環境が要件に適合しているか確認する
  4. 適合性の確認は、お客様ご自身の機器を操作していただいて行う
  5. お名前と「説明を理解した」旨を記入するかたちで承諾を得る
  6. 承諾を得たことを証する書面を交付する
  7. 契約書面等を電磁的方法で提供する
  8. データが到達し、閲覧できる状態になったことを確認する

このうちどれか一つでも欠けると、書面を交付したことになりません。交付していない以上、クーリング・オフの期間は始まらないままです。数か月後に解除を主張されても対抗できない、ということが起こり得ます。


手順ごとの要点

1. 何を示すか(施行規則第9条)

承諾を求める前に、次の2点をお客様に示します。

  • 事業者が使用する電磁的方法の種類
  • ファイルへの記録方式

2. 何を説明するか(施行規則第10条第1項)

説明が必要なのは、次の4点です。

  1. 説明と確認を受けたうえで承諾しなければ、紙の書面が交付されること
  2. 提供される事項は書面記載事項であり、お客様にとって重要なものであること
  3. お客様の機器のファイルに記録された時点で到達したものとみなされ、そこから8日を過ぎるとクーリング・オフができなくなること(記録媒体を渡す方法を除く)
  4. 4.5インチ以上の画面を持つスマートフォンやパソコンを日常的に使える方に限られること

そして施行規則第10条第2項は、これらを平易な表現で説明せよと定めています。条文をそのまま読み上げるのは不適切とされています。

消費者庁のガイドラインは、画面サイズの要件を例に挙げています。条文は「その映像面の最大径をセンチメートル単位で表した数値を2・54で除して小数点以下を四捨五入した数値が5以上」ですが、これをそのまま言うのではなく「4.5インチ以上」と説明しなさい、という趣旨です。

3. 適合性を確認する(施行規則第10条第3項)

確認すべきなのは、次のような点です。

  • メールの送受信や機器の操作を、お客様ご自身で行えること
  • その機器とメールアドレスを日常的に使っていること
  • OSなどの提供元サポートが終了していないこと
  • 第三者にも同時に送ってほしいか、その希望とメールアドレス

4. 確認の「やり方」まで決まっている(施行規則第10条第4項)

ここが見落とされやすいところです。適合性の確認は、お客様が日常的に使う機器をお客様自身が操作し、事業者のウェブページ等を利用する方法で行わなければなりません。

つまり、営業担当者が口頭で「メール使えますか?」と聞いて頷いてもらう、では要件を満たしません。実際にお客様の端末からアクセスしていただく、ショートメッセージの認証コードを入力していただく、といった実地の確認が求められます。

お客様がご自身で操作できない場合にどう判断するかは、ご高齢のお客様に電子交付はできるのかで詳しく書きました。

5. 承諾の取り方(施行規則第10条第5項・第11条)

チェックボックスやボタンを押すだけの承諾は認められていません。

お客様に、お名前と、説明の内容を理解した旨を記入していただく必要があります。一般的なウェブサービスの同意フローをそのまま持ち込むと、ここで要件を外します。

承諾の記録方法としては、メール等で承諾の旨を送信して事業者のファイルに記録する、ウェブサイト上で承諾する、記録媒体に記録する、といった方法が認められています。

承諾の取り方でいちばん多い不適合については、チェックボックスでは承諾になりませんにまとめています。

6. 承諾を得たことを証する書面(施行規則第10条第7項)

電磁的提供を行う前に、承諾を得たことを証する書面を交付します。原則は紙です。概要書面やオンラインで完結する契約については例外が定められています。

「紙をなくすために電子化するのに、紙を渡すのか」と思われるかもしれません。ここは制度の設計としてそうなっています。

電子交付にしても紙が残る書面については、電子化しても紙はなくなりませんにまとめました。

7. 提供する方法(施行規則第8条)

認められているのは次の方法です。

  • 電子メール等で送信し、お客様のファイルに記録される方法
  • 事業者のウェブサイトからお客様がダウンロードし、ご自身のファイルに記録する方法
  • CD-R等の記録媒体に記録して交付する方法

いずれの場合も、印刷して書面を作成できることファイルが改変されていないかを確認できる措置が必要です。ダウンロード方式の場合は、ファイルに記録された旨をお客様に通知します。

また、表示は明瞭でなければなりません。赤地に赤字、極端に小さい文字、広告が画面を占有している状態などは不適切とされています。

8. 到達の確認(政令第4条第3項、施行規則第12条)

送信しただけでは終わりません。データがお客様の機器のファイルに記録され、かつ閲覧できる状態に置かれたことを確認する義務があります。

ガイドラインは2段階の確認を示しています。

  1. ファイルに記録されたことの確認
  2. 閲覧できる状態にあることの確認(例:提供した内容の一部について回答をいただく)

なお「ファイルへの記録」には、お客様が管理権を持つクラウド上の保存も含まれます。お手元の端末に限られません。

到達の確認を現場の手順に落とす方法は、「送りました」では交付になりませんで書いています。


クーリング・オフはいつから数えるか(施行規則第13条)

  • 電子メール・ダウンロード方式:お客様のファイルに記録された時点から8日間
  • 記録媒体を交付する方式:交付した日から8日間
  • 連鎖販売取引・業務提供誘引販売取引:8日ではなく20日間

「記録された時点」がいつかを後から示せなければ、起算日を主張できません。ここを記録に残す設計になっているかどうかが、システムを選ぶうえでの分かれ目になります。

起算日が立ったあと、いつから工事に入れるのかは、クーリング・オフ期間中に着工していいのかをご覧ください。


やってはいけないこと(施行規則第18条第9号)

訪問販売については、9つの禁止行為が明記されています。いずれも現場で起こりがちなものです。

  • お客様が電磁的提供を希望しない意思を示したあとに、手続を進めること
  • 「法律上、紙での交付は禁止されている」といった事実と異なる説明をすること
  • 「メールアドレスを教えてくれるまで帰らない」など、威迫して困惑させること
  • 「承諾いただければ100円お値引きします」など、利益を供与して承諾を得ること
  • 「紙だと100円かかるが電磁的なら無料」といった、費用面で差をつけること
  • 事業者のパソコンを使って適合性の確認を済ませるなど、不正な手段を用いること
  • 4.5インチ未満の機器しかお持ちでない方に、確認せずに提供すること
  • お客様のスマートフォンを預かって、代わりに承諾操作をすること
  • 「画面をお見せするだけ」と言って、お客様の意思に反して手続を進めること

これらは違反行為として明記されています。営業担当者の裁量に委ねるのではなく、そもそも操作できない仕組みにしておくのが安全です。

9つの禁止行為それぞれについて、消費者庁ガイドラインが挙げている具体例は電子交付でやってはいけない9つのことにまとめました。

訪問販売そのものについて、行政がどの行為を処分しているかは点検商法で行政処分になった事例から、自社のNGラインを引くに整理しました。


実装してみて分かったこと

私たちが訪問販売向けの電子契約システムを作るなかで、特に注意が必要だと感じた点を3つ挙げます。

承諾フローは、一般的なウェブサービスの流儀が通用しない

同意チェックボックスに慣れていると、まずここで外します。お名前の記入と、理解した旨の記入。この2つが必要です。

「説明した」ことを、後から示せる形にする必要がある

4つの説明事項を画面に表示しただけでは、説明したことの証明としては弱くなります。どの項目を、いつ、どれだけの時間表示したか。そこまで記録に残しておくと、後々の紛争で説明の事実を示しやすくなります。

到達確認は、送信ログでは足りない

メールサーバーの送信成功ログは「送った」証拠にはなりますが、「閲覧できる状態になった」ことの確認とは別物です。お客様側で開いていただいたこと、内容を確認いただいたことを、別途記録する必要があります。


まとめ

訪問販売の契約書面は電子化できます。紙代・印刷代・郵送費・保管コストは実際に下がります。

ただし、要件は細かく、順序も決まっています。手順を一つ飛ばすと「交付していない」ことになり、クーリング・オフの期間が走り出さないという状態が生まれます。これは紙の運用にはなかったリスクです。

導入を検討される場合は、使おうとしているサービスが、ここまで挙げた要件を一つずつ満たす設計になっているかをご確認ください。「電子契約に対応しています」という説明だけでは、特商法の要件を満たしているかどうかは分かりません。

なお、工事をともなう契約では建設業法の請負契約書も別に必要です。2つの法律が同時にかかる場面はリフォーム訪販は特商法と建設業法が同時にかかるで整理しました。

この記事は、条文および消費者庁のガイドラインを確認して作成していますが、私たちは弁護士ではありません。個別の運用が法令に適合しているかどうかのご判断は、貴社の顧問弁護士にご確認ください。判断の材料として、仕組みの説明資料・証跡の取り方・画面集をご用意しています。

参照した一次情報

執筆:五十嵐 天導(みちびきworks 代表)

訪問販売の契約書面の電子化について、ご相談を承っています。

電子契約システム「インシナックス」は、訪問販売の現場に合わせて設計しています。 ご質問は info@michibikiworks.com までお気軽にどうぞ。

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