ご高齢のお客様に電子交付はできるのか ― 適合性確認で立ち止まったときの判断
この記事は、訪問販売で工事をともなう契約を扱う事業者向けに、特定商取引法の規定を整理したものです。一般的な情報提供であり、個別の案件についての法的助言ではありません。実際の判断は弁護士にご確認ください。
リフォームや住宅設備の訪問販売では、お客様がご高齢であることが少なくありません。契約書面を電子でお渡しできれば、印刷も郵送も要らなくなります。ただ、その場でスマートフォンを操作していただく必要があると聞いて、手が止まった方も多いのではないでしょうか。
結論から書きます。電子交付できるかどうかは、年齢では決まりません。 決めるのは、お客様がご自身で操作できるかどうかです。そして、それが確認できないお客様に電子で送ってしまうと、それは省令が名指しで禁じている行為にあたります。
この記事では、法律が実際に何を求めているのか、確認できなかったときに何をすればいいのか、ご家族に送る方法は用意されているのかを、システムを実装した立場から整理します。
結論:年齢は要件ではありません。要件は「自ら操作できること」です
特定商取引法の施行規則は、電子交付の前に適合性の確認を求めています(施行規則第10条第3項)。確認する事項は3つで、そのどこにも年齢は出てきません。
そのかわりに書かれているのが、次の文言です。
申込みをした者が電子メールの送受信その他の……電磁的方法により提供される事項を閲覧するために必要な操作を自ら行うことができ、かつ、当該閲覧のために必要な電子計算機及び電子メールアドレス……を日常的に使用していること(施行規則第10条第3項第1号)
読み方は2つに分かれます。「自ら行うことができる」ことと、「日常的に使用している」こと。 両方が必要です。
80歳の方でも、毎日スマートフォンでメールをやりとりしていれば要件を満たします。40歳の方でも、会社支給のパソコンしか触らず私用のメールアドレスを持っていなければ、満たしません。年齢で線を引くと、両方向に間違えます。
確認する事項は3つ。3つめが見落とされます
第10条第3項が挙げる確認事項を、そのまま並べます。
1号:ご自身で操作でき、端末とメールアドレスを日常的に使っていること
「お持ちですか」ではありません。「使っていらっしゃいますか」です。持っているだけの端末は、この要件を満たしません。
2号:その端末のサイバーセキュリティが確保されていること
サイバーセキュリティ基本法第2条の定義を引いています。実務では、OSやセキュリティ対策が極端に古いままになっていないか、という確認になります。
3号:あらかじめ指定する方にも送ることを求めるかどうか、求める場合はそのメールアドレス
ここが見落とされます。 契約書面を、お客様が指定した第三者のメールアドレスにも送るかどうかを、確認しなければならない事項として省令が定めています。 任意の親切ではなく、確認事項です。
なお、確認そのものの方法も決まっています。
販売業者又は役務提供事業者は、前項の確認をするときは、申込みをした者が日常的に使用する電子計算機を自ら操作し、当該販売業者又は役務提供事業者の……ウェブページ等を利用する方法により行わなければならない。(施行規則第10条第4項)
つまり、お客様ご自身の端末で、お客様ご自身に操作していただく必要があります。営業担当者が持参したタブレットで代わりに進めることはできません。画面の大きさについても、映像面の最大径から換算しておおむね4.5インチ以上という基準が置かれています。
確認できないお客様に送ると、禁止行為になります
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。
施行規則第18条第9号は、電子交付にまつわる禁止行為をイからリまで9つ挙げています。そのうちの「ト」が、次の行為です。
第10条第3項の確認をせず、又は確認ができない顧客又は購入者若しくは役務の提供を受ける者に対し電磁的方法による提供をする行為(施行規則第18条第9号ト)
「確認ができなかったお客様に、それでも電子で送る」ことが、名指しで禁じられています。
確認できなかったこと自体は違反ではありません。違反になるのは、確認できないまま電子に進むことです。ですから、確認で止まったときの正しい振る舞いは一つしかありません。紙でお渡しすることです。
同じ9号には、現場で起きやすい行為が他にも並んでいます。
- イ:電子での提供を希望しないと意思表示されたお客様に、それでも手続を進める行為
- ハ:威迫して困惑させる行為
- ニ:財産上の利益を供与する行為(「電子にしていただければ○円お値引きします」はここに触れます)
- ホ:書面の交付について費用を徴収するなど、財産上の不利益を与える行為(「紙をご希望なら郵送料をいただきます」もここです)
- へ:確認に際し、偽りその他不正の手段によりお客様に不当な影響を与える行為
- チ:偽りその他不正の手段により、承諾や受領を代行する行為
ニとホは対になっています。 電子を選ぶと得をする形も、紙を選ぶと損をする形も、どちらも作れません。電子交付は、お客様にとって損得のない選択でなければならないという設計です。
イからリまでの9つを現場の言葉に直したものは、電子交付でやってはいけない9つのことにあります。
ご家族に送る方法は、法律のなかに用意されています
「息子さんに見てもらいたい」とおっしゃるお客様は多いと思います。この場面のために、先ほどの第10条第3項第3号があります。
お客様が指定された方のメールアドレスにも、契約書面を送ることができます。事業者はその意思の有無を確認しなければなりません。
ただし、ここを取り違えると危険です。
ご家族は、承諾する人ではありません。 承諾するのは、あくまで申込みをしたご本人です。第3号が用意しているのは「送り先を増やす」仕組みであって、「操作できる人を代わりに立てる」仕組みではありません。
ですから、次の形は要件を満たしません。
- ご本人はメールを使えないが、息子さんのアドレスに送るので電子交付する
- ご本人の代わりに、同席したご家族が承諾の画面に記入する
前者は第10条第3項第1号(ご本人が日常的に使用していること)を満たさず、後者は第10条第5項の承諾がご本人のものになりません。いずれも、結果として第18条第9号トに触れます。
ご本人が操作できることが土台にあって、その上でご家族にも共有できる。 順序が逆になりません。
現場で立ち止まる4つの場面
場面1:スマートフォンはお持ちだが、メールは使っていない
いちばん多い形です。通話とLINEだけ、というお客様は珍しくありません。
このとき、キャリアメールのアドレスが存在していても「日常的に使用している」とは言えません。アドレスの有無ではなく、使っているかどうかで判断してください。 迷ったら紙です。
場面2:「息子に聞いてみる」とおっしゃる
その場で承諾をいただこうとしないでください。前節のとおり、ご家族は承諾者ではありません。
この場面では、いったん紙でお渡しするのが最も確実です。クーリング・オフの起算日を確実に立てるという意味でも、紙のほうが争いになりません。
場面3:営業担当者が代わりに操作しそうになる
「私が入力しますので、お名前だけ教えてください」。これが最も起きやすく、最も危険です。
第10条第4項は、お客様がご自身の端末を自ら操作することを求めています。代わりに操作すれば、確認をしたことになりません。確認をしていなければ、電子での提供は第18条第9号トに触れます。
承諾の記入についても同じです。第10条第5項は、お客様ご自身が氏名と「説明された内容を理解した旨」を記入することを求めており、記号の記入など認識が明らかにならない方法を禁じています。この点はチェックボックスでは承諾になりませんで詳しく書きました。
場面4:画面が小さい、文字が読めない
4.5インチ相当という基準は、あくまで下限です。基準を満たしていても、お客様が実際に読めていなければ、その後の到達確認で行き詰まります。
送ったつもりが交付になっていなかった、という形で表面化します。この点は「送りました」では交付になりませんをご覧ください。
紙と電子は、どちらかに寄せなくて構いません
ここまで読んで、「ではうちのお客様の半分は電子にできないのか」と思われたかもしれません。そのとおりです。そして、それで問題ありません。
電子交付は、義務ではなく選択肢です。 全件を電子にする必要はまったくありません。
むしろ、紙の運用を残しておかないほうが危険です。確認で止まったお客様に紙をお渡しできなければ、その場で契約が進まなくなります。急いで電子に押し込もうとすれば、第18条第9号のイ・ハ・ニ・ホのどれかに触れます。
実務としては、紙が既定で、条件が揃ったときだけ電子に切り替わるという設計が安全です。逆にすると、切り替えのたびに判断を迫られます。
どちらに転んでも、紙が1枚残ります
もう一つ、電子交付を検討するときに知っておいていただきたいことがあります。
電子で提供する場合、承諾を得たことを証する書面を、電子提供の前にお客様へ交付しなければなりません。
販売業者又は役務提供事業者は、第1項の説明及び第3項の確認をした上で、……承諾を得たときは、申込みをした者に対し、……電磁的方法による提供を行うまでに、当該承諾を得たことを証する書面(当該承諾を書面によつて得た場合においては、当該書面の写しを含む。)を交付しなければならない。(施行規則第10条第7項)
訪問販売では、これは紙で交付する必要があります。ここに書くのは、お客様が具体的にどのような電磁的方法による提供を承諾したのかです。
つまり、電子交付にしても、現場から紙が完全になくなることはありません。 「ペーパーレス」という言葉で導入を決めると、ここで話が違ってきます。減るのは契約書面の印刷と郵送であって、ゼロにはなりません。
紙で残るのはこの1枚だけなのか。ほかに紙が必要になる場面は、電子化しても紙はなくなりませんで整理しています。
実装してみて分かったこと
「確認できなかった」を、記録に残せる形にしました
当初は、適合性確認を「すべてはい」で通過させる設計にしていました。実際に運用を想像すると、これでは足りません。
確認できなかったお客様がいたこと自体は、違反ではありません。むしろ、確認して止めた記録が残っているほうが、後から説明できます。 そこで、確認の途中で「確認できず」を選んで終了でき、その理由とともに記録が残る形にしました。
紙に戻す導線を、先に作りました
電子のフローを作り込んでから紙への分岐を足すと、途中の状態がどこにも残りません。先に「紙で交付」の状態を持たせてから、電子を分岐として乗せる順序にしました。
結果として、営業担当者が現場で迷いにくくなりました。既定が紙であれば、判断しないという選択が安全側に倒れます。
ご家族のアドレスは、承諾の画面から離しました
第10条第3項第3号の送信先は、承諾とは別のものです。同じ画面に並べると、ご家族が承諾者であるかのように見えてしまいます。
確認の項目としては必須なので省けません。そこで、承諾の記入欄とは画面を分け、「送り先を増やす設定」であることが分かる文言にしました。
画面の大きさの判定は、機械にやらせないことにしました
ブラウザから画面サイズを取得して自動判定する案もありました。やめました。
取得できる値は表示領域であって物理的な画面の大きさではなく、設定次第で変わります。「機械が判定した」という記録は、判定が誤っていたときに逆に不利になります。 営業担当者が確認して記録する形にしました。
金銭に触れる表現は外し、「早い」は残しました
第18条第9号ニ・ホがあるため、「電子だと安い」という訴求は使えません。承諾を求める画面の文面から、金銭に触れる表現をすべて外しました。
なお、ガイドラインは「電磁的方法による提供が郵送より早期に到達し、より早期にサービスを受けられるケース」は財産上の利益に当たらないとしています。早さを説明することは差し支えありません。 禁じられているのは、電子を選ぶと得をする・紙を選ぶと損をするという金銭的な差を作ることです。
まとめ
- 電子交付できるかどうかは年齢では決まりません。ご本人が自ら操作でき、端末とメールを日常的に使っていることが要件です(規則第10条第3項第1号)
- 確認は、お客様ご自身の端末を、お客様ご自身に操作していただいて行います(同第4項)。営業担当者が代わりに操作することはできません
- 確認できないお客様に電子で送ることは、名指しで禁じられています(規則第18条第9号ト)。確認で止まったら紙です
- ご家族への送信は法律のなかに用意されています(同第3項第3号)。ただしご家族は承諾者ではありません
- 「電子だと安い」「紙なら郵送料をいただく」は、いずれも禁止行為に触れます(同第18条第9号ニ・ホ)
- 電子にしても、承諾を証する書面は紙で残ります(規則第10条第7項)
- 紙を既定にして、条件が揃ったときだけ電子に切り替える設計が、現場では安全です
参照した一次情報
- 契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供に係るガイドライン(消費者庁)
- 特定商取引法ガイド 訪問販売(消費者庁)
- 特定商取引に関する法律施行規則 第10条第3項・第4項・第5項・第7項、第18条第9号
- 特定商取引に関する法律施行令 第2条第1号、第4条
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適合性確認の記録、紙と電子の切り替え、承諾を証する書面の交付。実装した立場からお答えできることがあります。インシナックスの実際の画面をご覧いただくこともできます。
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